中古マンション売却の手続き 売買契約
不動産会社と仲介の媒介契約を済ませると、実際の売却活動が始まります。中古マンションの売却では、購入希望者が内覧を経て、購入申込書を出して来て、売り主・買い主双方で契約条件を詰めていきます。そして、契約条件について、買い主・売り主双方が合意したら、次は売買契約を締結します。
売買契約書とは
不動産の売買は、高額な資産を対象とした重要な取引なので、通常、契約書を作成して買い主・売り主間で契約を取り交わします。また、宅地建物取引業法でも、不動産会社(宅地建物取引業者)に対し、契約が成立したら遅滞なく契約内容を記載した書面を、宅地建物取引主任者に記名押印させたうえで交付することを義務づけています。
中古マンションの売り主も買い主も不動産会社ではなく個人の場合には、この売買契約書に記載された詳細の不動産取引条件が優先されますが、売買契約書に記載がない事項について、後々問題になった場合は民法に則ることになります。
売買契約書の内容と確認ポイント
売買契約書の一般的な内容と確認ポイント(★)については、以下の通りです。
1.売買物件の表示
・一般的には登記記録(登記簿)に基づいて契約書に記載されます。
★売却物件の表示に誤りがないか。
2.売買代金、手付金等の額、支払日
・売買代金や手付金等の金額と買い主の支払日が記載されます。
・手付金の種類(解約手付、証約手付、違約手付)も記載されます。
★売買代金に誤りはないか。支払日はいつか。
★手付金の種類は何か。金額は妥当か(売買代金の何割程度か)。
★手付が解約手付の場合、いつまで手付解除が可能であるかも確認。
3.所有権の移転と引き渡し
・所有権の移転と引き渡しの時期について記載されます。 所有権移転と引き渡しは、代金の支払いと引き換えに行われますが、実際は、代金支払いの場で、所有権移転登記に必要な書類や鍵など買い主に引き渡されることで完了することが多いようです。
★引っ越しなどの予定を踏まえて問題ないか(確実に引き渡しができるか)。
4.付帯設備等の引継ぎ
・中古マンションの売却においては、室内の照明やエアコンなどの設備などの引継ぎについて明確にしておく必要があります。このような付帯設備等の引継ぎをめぐるトラブルもありますので、契約前に、何を引継ぎ、何を撤去するかを買い主との間で十分に調整しておきましょう。
・また、引き継ぐ設備等が故障していないかなど、その状態も事前に確認しましょう。
・契約にあたっては、付帯設備の一覧表を作成して、一つ一つ確認することが多いようです。
★引き継ぐべき付帯設備等は明確か。
★引き渡し後に付帯設備の故障が判明した場合の対応については、通常、売買契約書とは別に取り決めをおこないます。
5.負担の削除
・抵当権や賃借権など、所有権を阻害する権利は、売り主側によって抹消された状態で引き渡さなければなりません(なお、投資用物件の売買では、テナントとの賃貸借契約に限って、買い主に引き継ぎます。この場合は、引き継ぐ権利と引き継がない権利を明確にする必要があります)。
★売却物件を完全な所有権で引き渡しができるか(抵当権や貸借権などを確実に整理できるか)。
★貸借権など引き継ぐ権利がある場合は、その内容は明確かを確認。
6.公租公課等の精算
・固定資産税や都市計画税といった公租公課については、売り主と買い主の間で精算することが一般的です。 その他、管理費などの費用を精算することもあります。
・精算は引き渡しの日を基準に、日割りで計算されることが一般的。
★どの公租公課をいくらで精算するのか、どんな精算方法にするのかの確認
7.手付解除
・契約を解除せざるを得ない場合に、手付解除することがありますので、そのような取り決めになっているが確認します。 当事者間の合意で、手付解除を認めない契約としたり、手付解除が可能な期間を限定することも可能です。
・手付金額は一般的に売買代金の20%までの範囲で設定されます。手付金が少額の場合、自分から解除する場合の負担は小さくなるが、相手から解除されるリスクも高くなります。逆に手付金が多額である場合は、その逆になります。
★手付解除は可能か。また、いつまで手付解除が可能か。
★手付金が適切な金額か確認。
8.引き渡し前の物件の滅失・毀損(危険負担)
・売買契約締結後に、天災で建物が全壊するなど、売り主にも買い主にも責任のない理由によって、売却物件が滅失・毀損した場合の取り決めです。
・一般的には売り主が修復したうえで引き渡すことになりますが、過大な費用が掛かるときや買い主が契約の目的を達せられないとき(たとえば、とても住む状態には修復されないなど)は、契約を無条件で解除することができる、万が一の場合の取り決めです。
★契約締結後、引き渡し前に物件が天災等により滅失、毀損した場合の取り扱いは明確か。
9.契約違反による解除
・契約違反(法的には「債務不履行」という)により、契約を解除するときの取り決めです。
・売り主または買い主のいずれかが債務不履行となった場合は、その相手方は契約を解除できます。 この場合、一般的に契約に違反した側が違約金等を支払います。違約金は概ね売買代金の20%までの範囲で設定されます。
★違約金や損害賠償の予約額は適切か。
10.反社会的勢力からの排除
・不動産取引からの「反社会的勢力の排除」を目的に、平成23年6月以降、順次、反社会的勢力排除のための標準モデル条項が導入されています。
・売買契約書の条項の中に「売り主及び買い主が、暴力団等反社会的勢力ではないこと」「物件を反社会的勢力の事務所その他の活動の拠点に供しないこと」などを確約する条項がもりこまれていることを確認しましょう。 相手方がこれらに反する行為をした場合は、契約を解除することができます。
★「売り主及び買い主が、暴力団等反社会的勢力ではないこと」「物件を反社会的勢力の事務所その他の活動の拠点に供しないこと」等の記載があるか。
11.ローン特約
・買い主に責任がないにもかかわらず、住宅ローンの借り入れができなかった場合、買い主は売買代金を支払うことができなかった場合に備え、一般的には売買契約にはローン特約を付すことが多いです。
・買い主は、住宅ローンの審査に落ちて、代金を支払えなくなった場合は、無条件で契約解除することができます。 売り主は手付金を返却することになります。よって、売り主は、買い主の信用力にも留意して契約することが必要です。 ただし、買い主に過失があって住宅ローンを組むことができなかった場合(ローン審査に必要な手続きを怠るなど)は、 この特約は適用されません。
★住宅ローン特約が付されている場合は、買い主の借り入れ金額などに無理はないか(無理な借り入れ内容の場合は、解除のリスクが高まる)。
12.瑕疵担保責任
・売買物件に、「隠れた瑕疵(欠陥など)」が発覚した場合、売り主は物件の修補や損害賠償の義務を負います。 瑕疵が重大で済むこともままならない場合などは、契約を解除されることもあります。
・売買契約では、売り主が瑕疵担保責任を負うか否か、負う場合は、物件の引き渡しからどのくらいの期間で責任を負うかなどが取り決められます。
・瑕疵担保期間が短いと買い主に不利、長いと売り主に不利などとなりますし、隠れた瑕疵をめぐるトラブルは非常に多いことから、必ず契約内容を確認しましょう。
★瑕疵担保責任の期間は明確かつ適切か。
13.契約全体について
★自分の希望条件は記載されているか
★自分にとって無理のある条件はないか
★不明確な条件はないか
★消費者契約に該当するか(該当する場合は消費者に不利な契約は無効)
★その他、特に定めておく事項はないか
※一般財団法人不動産適性取引推進機構が作成した
・標準売買契約書の例
・付帯設備一覧表の資料
また、上記の中でも注意すべきは、「手付金」「瑕疵担保責任」「契約の解除」についてです。
手付金
売買契約締結の段階では、売買代金の支払いが全額行われるわけではありません(代金の支払いは物件の引き渡しの際に行われる)。よって、売買契約の締結時には、買い主から購入の意思表示として、「手付金」を売り主に支払うことが一般的です。
売り主は、この手付金を受け取ることにより、売買契約を結んだ相手(買い主)以外に、物件を売却することはできなくなります。
手付金には、次の3種類があります。
(1)証約手付
契約の締結を照明することを目的として授受されます。
(2)解約手付
・売り主は既に受け取った手付金の倍額を買い主に返すこと
・買い主は既に支払った手付金を放棄する(返還を求めない)こと
により、売買契約を解除することができる手付をいいます。
(3)違約手付
当事者契約違反(違約)があった場合に、損害賠償とは別に違約金として没収することができる手付をいいます。
一般的に、不動産売買契約では、(2)の「解約手付」つまり手付金によって売買契約を解除できるものとして授受されます。民法でも特段の定めがない場合には解約手付と推定するとされています。
手付金の金額については、特に決まりはありませんが売却代金の10%が相場のようです。買い主にとって金額が大きいのは負担ですが、逆に金額が少ないと、事情によっては手付金を放棄すれば契約を解除してマンションを買わないということもできてしまいます。
そうなると、売り主としてはまた売却活動を一からやり直さなければならなくなってしまいます。時間が経つことで、マンションの価値が下がってしまうこともあるかもしれません。
なので、売り主にとっては、手付金の金額と手付解除できる期間(売買契約締結から2週間が一般的)の確認は重要です。
瑕疵担保責任
■瑕疵担保責任とは
・「雨漏り」のような物件の欠陥を「瑕疵」といいます。その中でも、買い主が知りえなかった「瑕疵」を法的には「隠れた瑕疵」といいます。隠れた瑕疵が判明した場合、買い主は、売り主に対して物件の修補や損害の賠償を求めることが可能です。
・また、欠陥などが重大で、住むこともままならない場合などは、契約の解除を求めることもできます。
・このような、物件の瑕疵に関する売り主の責任を「瑕疵担保責任」といいます。
■瑕疵については、主に以下のような種類があります(記述内容は不動産全般(土地・建物・マンションなど)に対するものです)。
物理的瑕疵
・建物の場合、雨漏り、シロアリ、耐震強度の不足など。土地の場合、土壌汚染、地中障害物の存在など。
法律的瑕疵
・取引する土地に法令上の建築制限が課せられている場合など、法令等により取引物件の自由な使用が阻害されているような場合。
心理的瑕疵
・取引する住まいで過去に自殺や殺人事件などがあり、心理的な面において住み心地の良さを欠く場合
環境瑕疵
・近隣からの騒音・振動・異臭・日照障害など、取引物件自体には問題はないけれど、取り巻く環境に問題がある場合
■付帯設備について
引き渡しする付帯設備としたエアコンや給湯器などが、引き渡し後に故障していることが判明した場合はどうなるのでしょうか。
基本的に、中古マンションの売買において、付帯設備はあくまでも中古品のため、引き渡し後の故障は買い主側の責任で修理をすることになりますが、引き渡し直後に故障したり使用できない場合は買い主側にとってあまりにも不利なので、引き渡し後7日~2週間ぐらいの期間で故障が判明した場合は、まず売り主に連絡をした上で修理をするかどうか・修理費の負担をどうするか協議の上対応するという取り決めを交わすことが多いようです。(取り決めについて、法的にどう担保するのかについては、不動産会社にご相談ください)
要は、付帯設備の引き渡し後の故障については、不動産の売買契約とは別の扱いとして、その責任範囲と期間・対応方法について別途取り決めを行う必要があります。
■瑕疵担保責任を負う期間
・売買契約では、売り主が瑕疵担保責任を負うか否か、負う場合は物件の引き渡しからどのくらいの期間、責任を負うのかなどが取り決められます。
・ただし、物件の隠れた瑕疵をめぐるトラブルは非常に多いので、売り主は把握している瑕疵については誠実に情報を提供しましょう。買い主とともに十分に物件を確認することで、契約前に瑕疵を明らかにしていくことが重要です。(契約時に瑕疵の有無や対処について全て明確化できて、売り主・買い主双方が協議をして納得した上で「瑕疵担保責任を負わない」という特約を付することもできますが、これは買い主側にとっては隠れた瑕疵が見つかった場合に、費用の請求などができなくなる、買い主側にとっては不利な特約なので、なかなか難しいでしょう)
・なお、売買契約に瑕疵担保責任の記述がない場合は、民法の規定に基づきますが、民法の規定では、売り主の瑕疵担保責任の期間が限定されないので、売買契約では、瑕疵担保責任の内容だけでなく、売り主が瑕疵担保責任を負う期間を明確化(引き渡し後半年以内とするなど)しておかなければ、売り主にとっては厳しい条件になります。
・なお、売買契約に期間の定めがない場合には、売り主が瑕疵担保責任を負うのは、買い主が隠れた瑕疵を知ってから一年以内と定められています。売買契約に瑕疵担保責任を負う期間を記載しておかなかったら、引き渡し後、数年経った後に隠れた瑕疵が見つかった場合も修理や賠償を請求される可能性があるのです。
※上記はいずれも売り主が個人の場合です。不動産業者が売り主の場合は、買い主の保護のため、期間などが長くなっています。
契約の解除
マンション売却などの不動産売買は、非常に大きな金額を伴う取引です。よって、一旦契約を締結すると、一方の都合で簡単に契約を解除することはできません。それでも如何ともしがたい理由によって、契約が解除されるケースについては、以下のようなものがあります。
1.手付解除
・相手方が契約の履行に着手するまでは、手付金の倍返し(売り主側)、または放棄(買い主側)により契約を解除することができる。
2.危険負担による解除
・天災(台風や地震など)により物件が毀損した場合に、過大な修復費用がかかるときは、売り主は無条件で契約を解除することができる。
3.契約違反による解除
・売り主または買い主のいずれかが契約に違反した場合、違約金等の支払いにより契約が解除される。
→例えば、相手方が売買契約書に定められた通りに進めなかった場合に、期日を決めて実施を促しても応じてもらえなければ、契約を解除して違約金を請求することができる。
4.瑕疵担保責任に基づく解除
・物件重大な瑕疵(欠陥など)があった場合に、その瑕疵により契約の目的が達せられない(住めない状態であるなど)場合は、買い主は無条件で契約を解除することができる。
5.特約による解除(住宅ローン特約など)
・特約の内容に応じて解除することができる。たとえば、「ローン特約」の場合、買い主に落ち度がなくても住宅ローンを受けられなかった場合に、買い主は無条件で契約を解除することができる。
6.合意による解除
・当事者の合意に基づく条件で契約を解除することができる。
いずれの場合も、発生してしまった場合の条件について売買契約書に盛り込むようにしましょう。特に契約違反による解除の場合は、売買代金の10~20%の違約金が設定されることが一般的ですし、住宅ローン特約の場合は、手付金を買い主に返却することになってしまいます。例えば、仮審査に通っているかどうかを契約前に確認するなど、契約を締結する前に気になる点は必ずクリアにして、慎重に契約を進めましょう。
売買契約の締結
契約内容に納得したら、いよいよ売買契約締結です。
売り主と買い主が集合し、売買契約書を読みあげて契約内容の最終確認をします。
その上で、契約書に署名・押印し、手付金等の授受を行います。
また、不動産会社への仲介手数料については、契約時に支払うことが多いです。
■契約時に必要なもの
・手付金
→手付金および手付金等の領収書。手付金は、代金の20%以内(通常は10%程度)が一般的(支払方法は現金・振り込み・預金小切手など)。
・印紙
→売買契約書に貼る。
(参考)代金が1000万円超5000万円以下の場合の印紙代は1万円。なお印紙については、国税庁のwebサイトにてご確認ください。
・印鑑
→実印を要求されることが多い。
・不動産会社の仲介手数料
→媒介契約書であらかじめ取り決めた金額(支払方法は現金・振り込み・預金小切手など)。※必ず領収書を受け取ること
・本人確認書類
→運転免許書・各種健康保険証など(なお、不動産取引においては、犯罪収益移転防止法により、買い主または仲介の不動産会社から本人確認書類の提示や職業、取引目的などの申告を求められます)。